名古屋地方裁判所 平成2年(わ)1923号 判決 1991年5月22日
本籍
静岡県浜松市城北一丁目一三七番地
住居
愛知県刈谷市東境町昭山八三番地三
鳶土木工事請負業
内藤益男
昭和九年九月一二月生
右の者に対する所得税違反被告事件について、当裁判所は、検察官栗原雄一並びに弁護人岡田正哉各出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
一 被告人を懲役一〇月及び罰金一〇〇〇万円に処する。
二 右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
三 本裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、肩書住居地において、「内藤組」の名称で鳶土木工事請負業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告書に際し、架空の労務費を計上する方法や、所得金額に関する収支計算をしないで適宜過少な所得金額を計上する方法により、所得の一部を秘匿したうえ、
第一 昭和六一年分の実際の所得金額は六〇六五万六六〇九円であり、これに対する正規の所得税額は三〇四三万二一〇〇円であったにもかかわらず、昭和六二年三月一六日愛知県刈谷市神明町三丁目三四番地所在の所轄刈谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一四九六万二二三七円であり、これに対する所得税額が三六二万六三〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和六一年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二六八〇万五八〇〇円を免れた
第二 昭和六二年分の実際の所得金額は二五六一万四〇五一円であり、これに対する正規の所得税額は八八四万九五〇〇円であったにもかかわらず、昭和六三年三月一五日前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六三一万五五〇〇円であり、これに対する所得税額が五八万一八〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和六二年分の正規の所得税額と右申告税額との差額八二六万七七〇〇円を免れた
第三 昭和六三年分の実際の所得金額は五〇六二万九七一七円であり、これに対する正規の所得税額は二〇五八万六九〇〇円であったにもかかわらず、平成元年三月一五日前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九九九万二二〇〇円であり、これに対する所得税額が一四六万一六〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和六三年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一九一二万五三〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書二〇通
一 検察官(一通)及び検察事務官(五通)作成の各捜査報告書
一 鈴木邦夫の検察官に対する供述調書
一 鈴木邦夫の大蔵事務官に対する質問てん末書二通
一 内藤とみゑ、内藤益夫、内藤国男、内藤一広及び太田驍の大蔵事務官に対する質問てん末書各一通
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一二通
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 刈谷税務署長作成の証明書三通(但し、判示第一の事実につき検甲第三九号証、判示第二の事実につき同第四〇号証、判示第三の事実につき同第四一号証)
(法令の適用) [求刑・懲役一年および罰金一五〇〇万円]
被告人の判示第一ないし第三の各所為はいずれも所得税法二三八条第一項に該当するもので、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑(併科)を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については刑法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で処断すべきところ、昭和三一年頃から協新企業株式会社の下請として「内藤組」の名で鳶土木工事請負業を営んでいる被告人は、その請負代金額が昭和六一年から昭和六三年まで三年間で合計約六億八〇〇〇万円にものぼるのに、収支計算に必要な帳簿類を整備しないまま、申告納税制度を悪用して本件各犯行に及んだものであり、その逋脱税額が合計約五四一九万円と高額であるばかりか逋脱率も高く、被告人の刑事責任が重いことは明らかであるというべきであるが、他方、被告人は今回深く反省して、本件につき既に正規の本税はもとより重加算税及び延滞税を完納しているうえ、近く会社組織にして税理士の指導監督を受け納税義務を遵守していく旨を誓約していること、被告人の依頼で既に被告人の税務処理に関与している税理士山下卓志も、その信用にかけて被告人を指導監督していく旨を誓約していることなど被告人に有利な情状もあるので、これら諸般の事情を考慮して、被告人を懲役一〇月及び罰金一〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、前記情状により刑法二五条一項を適用して本裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することにする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松永眞明)